「彼氏、いるんだけど」
  「知ってる」


  どういうつもり?と言おうとしたら、また口をふさがれた。指をそっとなでられてぞくっとする。ゆっくりと
  目を開けると自信ありげな、いつものあの顔があった。


  「だって翔太は俺のオトモダチだもん」


  にやっと笑う。それを見て背筋に何か走るような感じがした。なんだか感電した、気分。思わず一歩
  後ずさった。キュッと教室の床が鳴る。だけどそれでも神野から目が離せない自分を、心底殴りたい
  と思った。
  なんなのこいつ。翔太と1番仲良いはず、だよね。なんなの、なんなのよ。一体どういう、つもり。

  翔太の顔を思い出す。翔太、翔太、翔太、しょうたしょうたしょうたしょうたしょうたしょうたしょうた



  「それ、翔太にもらったの?」



  神野はわたしの右腕を指した。チャリ、と主張するように翔太からもらったブレスレットが音を立てる。



  「・・・別に、関係ないでしょ」


  「ふーん」


  神野はブレスレットを睨むような目で見下ろした。その表情は怖いほどきれいだった。窓から少しだけ
  差し込む夕日が神野の髪にかかって金色に輝いて見える。



  目が、離せない。これ以上は、  怖い。



  後ずさろうとしたわたしの右手を、神野が掴んだ。ブレスレットが腕にくい込んで、痛い。



  「はな、して」
  「・・・」
  「離してよ!」
  「いやだ、って言ったら?」

  神野は形のいいその口をにやっとつり上げた。そのしぐさに、またぞくっとする。


  翔太からもらったブレスレットは神野の手で見えない。音も聞こえない。何かがぽっかりと抜け落ちて
  しまったような不安が、ふいに押し寄せた。




  何もかもバレている気がした。あの目はきっと何でも見透かしているんだ。
  わたしの気持ちなんて、全部。




  「離さねーよ」



  掴まれた手首が、じわりと熱くなった。





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