パ ス テ ル カ ラ ー の 空 に 飛 ぶ
例えば学校一の美少女だとかファンクラブがあったりだとかそんなことはない。自慢じゃないけどそんなことわたしには無縁。
例えば授業を屋上でサボってそこでかっこいいヤンキーに出会って恋に落ちるとかそんなことありえない。だって授業の前には先生はいない人をチェックするし
屋上には鍵がかかってるし、だいたいそんなことする人この学校にはいないんだ。
クラスでは目立つほうじゃないけど全く目立たないってわけじゃない。成績だって中くらい。マンガとかドラマとか見て「こんな展開ありえなーい!」なんて言いな
がら実はそんなことが現実に起こらないかって期待しちゃったり。憧れの先輩の写真とか撮りまくったりちょっとでも近づきたいから先輩のクラスの前をうろうろし
てみたり。
なんというかかんというか、わたしは普通の人だと思う。
「ねーピーターパンって本当にいないのかな」
「なんだよいきなり」
「別にーだって空飛んでみたいじゃん」
上を向くとちょっとよどんだ灰色の空。星がチラホラと浮かんでる。よーく目を凝らすとピーターパンとか飛んでそうで。もし今ピーターパンが来てくれたら一緒にネ
バーランドに行ってずっとずっとそこで暮らすんだ。そしたら一生大人にならなくてもいい。ずっと15歳でいられる。
「ティンカーベルとかさぁ、いないのかな」
「坂下・・・熱でもあんの?」
「わたしはいたって正常ですー!宮内には夢ってものがないの?」
「夢じゃなくて妄想だろそれ」
「あーひどい!ばかにしたよこの人!」
妄想と言われればそれまでだけど。受験勉強から逃れようと現実逃避してるって言われれば、それまで、だけど。
だってなんだか寂しいんだ。明日もきっとわたしは遅刻ギリギリに学校行って授業受けてお弁当食べて授業受けて・・・なんだか明日が想像できちゃうのが寂しい
んだ。何か奇想天外なこと起きないかな、なんて。ある夜ピーターパンが来てネバーランドに誘ってくれたり、時計ウサギを追いかけて冒険しちゃったり。そんなあ
りえないことばっかりが浮かんでは消えていく。
「火星人とかいないかなーUFO乗りたいな」
「今日はいつもにまして世界入っちゃってんのな」
「なんなのさっきから!考え事してるんだからさぁもう!」
「何?火星人の生態について?」
「違うって!ばかにして!」
「なんでもいーけどさ、早くしないとMステ始まるんだよ」
「わー!わたしよりミスチルのほうが大事なんだ!ばか宮内!」
「お前なに言ってんだよ、 ほら」
あ、今ピーターパン見えたかも。ティンカーベルと空飛んでた、きっと。
「えへへーえへへのへー」
「うわ今度は笑いだしたよこえー」
「えへへーだって宮内から手繋いでくれるなんてめずらしい」
「お前歩くの遅いんだよ」
「またまた!そんなこと口実のくせにー!うふふ」
「・・・うぬぼれんなばーか」
「えへへーえっへっへー」
ごめんねピーターパン。わたしやっぱりネバーランドには行かない。ここで大人になるんだ。
ティンカーベルも火星人も。わたし、まだ空飛べなくてもいいや。
繋いだ宮内の手があったかいからそれでいい。
うん、やっぱりわたしがここがいい。
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